慶應か、翆嵐か!? 最後の選択 5

合格発表後の辞退は許されない、公立高校の鉄のルール

神奈川県の公立高校受験では繰り上げ合格は一切出しません。従って、神奈川の公立高校受験では、“いただいた合格を辞退することは禁止”ということが絶対のルール。

これは、安易に合格を取って辞退しないように、進路は厳粛に決めるもの、という教育的な考えもあるでしょう。それと実際、公立高校は繰り上げ合格の事務手続きを行えるほどの人数体制がないことが大きな理由だそうです。

合格を見てから入学辞退すれば、高校は繰り上げ合格を出さないため辞退者の分はそのまま欠員に。その高校が第一志望であえなく不合格になった次点の生徒は、欠員が出ているのに入学させてあげられないという事態が起こります。

そのため、合格を辞退するなら合格発表を見る前に辞退届を出すべし! というのが神奈川県の公立高校受験の鉄則なのです。

入学辞退の手続きは、中学の校長を通して高校の校長へ連絡するという流れ。もしもそのタブーを冒して合格発表後に辞退するとしたら、中学の校長が高校に連絡を入れるので校長の面目をつぶすことになり、中学の校長に大変な失礼をすることになります。そして中学側は当然高校に大変なお叱りを受けることになる。そして、中学と高校の信頼関係もビミョーに崩れるでしょう。ということは、先々の後輩の合否にもいろいろと影響が出てくるかもしれない。周囲の大勢の方々に迷惑をかけることになってしまいます。そういった意味でも、ルールを冒して合格発表後の辞退は許されません。

その理屈は十分理解できます。正しい。でも実際、受験生側の心理としては結構モヤモヤします。

長男の場合、横浜翠嵐は合格しているだろうとは確信できていたので、合格発表を見る前だろうが後だろうが、同じといえば同じですが、でも実際に結果を前にして考えた方が、納得が行くものでしょう。ストンと気持ちがおさまるんだろうなあと、少しもどかしい気がしました。

どちらにするか? 結論を出すタイミングも難しい

また、受験終了してから合格発表までは10日前後と長い。辞退を考えるかどうかの猶予期間だとは思いますが、どのタイミングで結論を出すかについても悩みました。早々に結論付けるのも安易ではないかと気になるし、だからと言って引っ張れば、引っ張っただけまたさらに悶々と悩んで迷宮に陥ってしまいそうです。

サピックスの先生にも、中学・高校に失礼のないように、辞退を決めたら、ギリギリまで引っ張らずにすぐに手続きするよう言われていました。

長男も面接まで受けましたが、その後しばらく悩んで、言葉数は少なく、悶々としていました。その悩みは単純に「どっちがいいかなあ~♪」と、楽しい選択ではない。客観的には恵まれた選択ではあるとは思いますが。長男としては、筑駒に落ちた悔しさ&敗北感がベースに横たわる中で、今あるカードを使ってこの先どうしようかを考える、複雑な思いでの選択です。長男としては、重苦しい中での、どっちにするの? の選択。

長男の最終決断。その根拠は

何日か悩んだ後、長男「僕、やっぱり慶應にしようかと思う」と私に言ってきました。

長男が話してくれた理由としては

  • 今、筑駒を落ちてすごく悔しい。悔しくて仕方がないので大学受験でリベンジしたいと思うけど、その気持ちのままで行ってしまうこと自体良くないのではないかと思う。このままだと僕は、勉強を“勝ち負け”のレベルでしか考えられなくなってしまう気がする。本来勉学はもっと奥深いものであるはずなのに。それを知らないまま表面的なものに捉われて、たとえリベンジ成功しても自分が勘違いしてしまう気がする。視野が狭まる気がする。学問の捉え方をシフトチェンジするべきだと思う。
  • 実際に、今回の受験で第一志望の筑駒は不合格だったが、慶應には受かった。悔しいからといって慶應を蹴ってしまうのは浅はかではないかと思う。慶應に受かったことだって立派なことなんだから。その権利は大切に、有効活用すべきだと思う。慶應に入る権利を最大限に活用して、受験勉強の勝ち負けに捉われた学習から卒業し、もっと深く勉学を追究する姿勢を身につける方が賢明なのではと思う。
  • 横浜翠嵐高校も良い高校だと思うけど、再び公立中学で友だちに感じた物足りなさを感じるのではないかと不安。実際入試でも、慶應の入試の雰囲気、緊張感の方が自分にはしっくり行った。慶應の試験会場にいた人たちの方が気が合いそうな気がした。
  • 面接でも慶應の方が好印象だった。翠嵐での面接はあまり特別なことは聞いてこなかったが、慶應の先生方の質問は、きちんと僕を知ろうとしてくれていた気がする。面接試験とはいえ、あれだけきちんと向き合って下さる先生方がいるところに僕は行きたいと思う(ちなみに、翠嵐は面接で落とすことは基本的にはないと説明会で言っていました。どちらかといえばセレモニー的、子供に面接を体験させるという教育的意味合いが強いとみられます。それに対して、慶應は私立。結局は点数で合否が決まるという説が強いようですが、面接内容・方法にはポリシーがあるようです。どちらの学校が優れた面接試験かというよりも、それぞれの学校の面接試験の位置付けの違いと思います)。

長男の話からurashimamamaの思ったこと

なるほどね、辛い中でよくいろいろ考えたね、と思いました。

私は、地方出身ですが地元にあった東京の大学附属校に中学から入り、エスカレーターで大学に入りました。高校生だった当時、上のレベルの大学を目指して受験を希望しましたが、両親に反対され断念。ちょっと物足りない思いで大学に入りました。しかし大学で出会った各附属校出身の友人達は、皆揃って優秀! そして真摯な姿勢で学問に向き合う人が多く、自由に意欲的に勉学に取り組んでいました。偏差値や試験の点数の優劣ばっかり気にしていた私って、ちっぽけだったなあと思った覚えがあります。

だから、私は以前から長男に「附属校は受験が無いからと言っても侮れないよ。怠ける子もいるにはいるけど、もっと深い意味での学問の取り組み方を知っている子も多いよ。テストの成績だけに捉われてはいけないよ」とよく話をしていました。その話も長男に少し影響を与えていたようです。

また、長男が慶應の面接で感じたことについては、誰もが緊張する面接試験の中で、よくそれだけ感じ取ることができたなあと感心しました。親バカですが。それと同時に、慶應の面接に対する考え方というか姿勢についても、多くの受験者に対応されている中で本当にありがたいことだと思いました。

パパが帰宅してから、家族会議をしました。

長男、あらためてパパにも自分の考えを話しました。パパは長男の話を静かに聞き、そして「わかった。じゃあ慶應に決まりだね」と言いました。

それから中学校に翠嵐辞退の意志を電話で伝え、手続き方法の指示を仰ぎました。正式に横浜翠嵐高校の入学辞退届を出したのは、試験終了4日後。2月22日のことでした。